

古希を迎えたご夫婦のご希望は「年齢を考えると、この家で暮らすのはわずかな間だ。だから、未来の人たちに贈る家を建てたい」。
成熟した街で愛され、使い継がれるためには、そこでコミュニティが形成されるにふさわしいデザインと背景を持った建築が必要でした。
地元の産業や文化を採り入れた建材に、将来の使用用途によって自由に再デザインできる柔軟性に富んだレイアウト。
受け継がれる建物とは何か、建築そのものあり方について、ひとつの新しい提案となりました。
住まいの壁・屋根・床に採用したのは、間伐材などの利用しづらい材を簡易な作業で大量に活用できる、連続厚板「マッシブホルツ」。
使用した材は北海道の人工林の5割を占めるトドマツです。
トドマツは水分含有量が多く割れやすいため、一般的に下地材や補助材に使われる材ですが、主伐期を迎えながらその間伐材には確たる使用用途が確立されていません。
「マッシブホルツ」により、流通ルートに乗りにくい間伐材に新たな活用の場を設け、地元の林業の振興に貢献しています。
パブリック空間である1階は、30人以上を収容できる70㎡の無柱空間。ワークショップ、セミナー会場、コンサート会場など、様々な用途に使用できる「ガランドウ」な空間です。
ご夫婦のプライベート空間である2階は独立架構のブリッジを採用しているため、原理的には撤去も可能であり、更に汎用性の高い建物として価値を高めています。
また、暖房・給湯システムには太陽熱と薪の燃焼熱を併用。蓄熱タンクから床暖房へと、熱をカスケード型に利用することで環境面にも配慮しています。
外壁にはこの地域で生産され、北海道遺産にも認定されている「江別煉瓦」を使用しており、地域の人々が集まり、コミュニティを形成する場としてふさわしい、江別の文化・産業・伝統を受け継ぐ「価値のある」建築となりました。