

製材所の片隅で廃棄を待つだけのデッドストック。節が多い、あるいは丸みやひび割れがあるという理由で、たとえそれが軽微な欠点であったとしても活用されることは殆どありません。
この廃棄される材を積層板として接合することで、木の持つ美しさと、構造体としての頑強さという新たな価値を見出したのが「木のカタマリに住む」家です。
積層板は通常最先端の工場での加工が必要ですが、ビスやダボ、釘で接合するというある種ローテクな技術を用いることで、中小企業でも参入可能な間口の広さも実現しました。
製材所の歩留まり率を改善することで国内林業の活性化を目指し、同時に中小の建築会社にも参入の機会を与える、建築業界に新たな市場を生み出す意欲的な構造です。
住まいの外壁や床、屋根には、厚さ12cm、乱尺幅、長さ3~6mのスギ芯持ち平角材を平並べし、相互に構造用ビスで留め合わせた平角マッシブホルツ(写真左)を採用。
端が乾燥割れを起こしていますが、頑強な躯体であるのと同時に、高い断熱、蓄熱、蓄湿機能が期待されます。
内壁には、スギ間柱材を釘やダボによって接合したブレットシュタッペル(写真右)を用いました。こちらは角に丸みが入っているため、市場流通することのない材です。
どちらも市場の価値は非常に低く、ストックヤードの片隅に積まれていたデッドストックです。
しかし両方の積層板もせん断試験を行い、構造躯体としての十分な耐震性能を認めることで、頑強な構造体としての価値を見出すことが可能になりました。
また、この住まいには、薪を燃やして発生した熱をカスケード(多段階)に利用できる仕組みが取り入れられています。
冬季、キッチンに設けられたクッキングストーブでは薪が燃やされ、この熱は調理に使われるのと同時に温水を作ります。
温水は家の中央に設置された1トンの蓄熱タンクに送られ、床暖房と給湯熱源として使われます。
夏季は薪ストーブに代わり、天井に設置した「太陽熱集熱器」が熱源となります。
利用しなければそのまま熱として放出されてしまう余剰エネルギーを有意義に使うこともまた、廃材を構造体とするのと同じ、サステナブルな社会づくりの一環です。
網野氏はこの住まいをデザインするにあたり、「人間が木に霊性を感じていた頃の住まいのように、プリミティブな母性空間を想った」と述べられています。
木材には、軽さ、加工性、強度、断熱性、調湿性、そして美しさなど、様々な特徴がバランス良く備わっており、更に木材をカタマリとして扱うことで、それら特徴の相乗効果が期待されます。
構造も、断熱も、仕上げも未分化。木のひびも、節穴も、あるがままに見せる家。12cmの無垢板で覆われたこの住まいの中では、まるで木によって守られた巣のような安心感を感じられます。