
近代の日本建築は効率化と省コストを命題とし、スクラップ&ビルトの方向に進んできました。
しかし本来の日本建築は、材を補修することで100年以上の年月を住み継ぎ、建物を解体した後も優れた材を次世代へ残すことができる優れた建築方法です。
そのために必要なのは、木の性質を熟知し材を活かすことのできる設計士と、先達が築き上げた技術を受け継ぐ職人たち。
優れた日本の建築を後世に伝えるためには、深い知識を伴う設計力と職人の技術力が必要であるということに、この「大町の家」を通じて気づいていただけることを希っています。
大町の家に使用されている古材は、梁として、また柱として、長い年月使用されることによって自然に乾燥し、強度を増した天然乾燥材です。
その中には現在は入手が困難となった太くて狂いにくい銘木も多く含まれています。
かつての木造建築は、根継・土台替え・継木・矧木・埋木といった職人の技術を用い、腐朽箇所のみを補修することで、木材の寿命を長く保ってきました。
過去の銘木に支えられた「大町の家」もまた、自身が移築・解体される際には、使用している古材を貴重な資源として循環させることを念頭に置いて設計されています。
古民家の再構築には、古材が使えるか、どこにどう使うべきかを見極めることのできる設計士、そして古木を補修する伝統的な技術を持った大工が不可欠ですが、機械加工が増えた現在の建築界では、そのような設計士や職人の数は減少の一途を辿っています。
「大町の家」を再構築する際、多くの若手大工が古材に触れ、そこに刻まれた当時の加工技術を探り、習得することで、日本の伝統技術が継承されました。
今後も「大町の家」は絶え間なく続くメンテナンスを通して、多くの若手大工が優れた技術に触れ、それを習得する場となり続けることでしょう。
(写真中央:設計士 日影 良孝 氏)