WORK 141

土間と薪ストーブのある鎌倉の家

築50年の古家付き土地を購入したお施主様。 既存住宅に1年間ほど住みながら、リノベーションするか建て替えるかを検討されたそうです。 最終的に、希望する仕様に近づけるためにはリノベーションの方が費用がかかることが判明し、建て替えを決定。 らせん階段や北欧デザインの薪ストーブ、バーベキューやガーデンパーティーを楽しむウッドデッキなど、様々なこだわりを詰め込みつつ、 1年間暮らして分かった採光・通風の特徴を上手く取り込んだ、自然の力を活かした NearlyZEH の住宅を作り上げました。

建築データ

  • 構造

    木造
  • 所在地

    神奈川県鎌倉市
  • 築年数

    新築
  • 階数

    2階建て
  • 建築面積

    51.37㎡(15.54坪)
  • 世帯数

    単世帯
  • 性能

    長期優良住宅 NearlyZEH パッシブソーラー
凹凸が美しいシラスの塗り壁

外観 Facade

屋根に設置した集熱パネルが効果的に陽光を受け止められるよう、前面道路に対して建物を斜めに配置した。 玄関周りに用いたのは「美杉」という化粧材。焼杉の炭をブラッシングして落としたもので、木目の美しさが際立つ一品。

アクセントに美杉を用いた和モダンな外観

Garden

建物と道路の間に生まれた三角形の土地を活かし、アプローチは庭に向かってから途中で折り返すレイアウトとした。 植栽は在来種を中心に選定。しだれ柿、ドウダンツツジ、ヤマコウバシなどの高木を主軸に据え、しだれ椿や常緑アヤメ、アセビといった低木が四季を彩る。 古都・鎌倉らしさを取り入れ、下草には山野草を、飛石の間には苔を植えた。 道路から玄関へ真っすぐ向かわず植物の間を掻き分けるように進むため、植栽の印象が残るアプローチとなった。

庭に向かって大開口を設けた外観

外観 Facade

天然素材の「シラス」を原料とする塗り壁が、味わい深い凹凸を生む外観。 建物は北西に寄せ、日当たりの良い南東方向に大きな庭を設けた。 大開口によってダイニングからウッドデッキへ、ウッドデッキから庭へと、屋内外が段階的に繋がるレイアウトとしている。

框を斜めに切った玄関土間

玄関・土間 Entrance and doma

框を斜めに取り、三角形の式台と組み合わせた玄関。間取りに斜線を取り込むことで接面が広がり、使い勝手が良くなる。 玄関三和土は那智黒石の洗い出し仕上げを採用。向かって左側の通路は納戸を経由してダイニングへと続いている。 玄関ホールとLDKを分ける引き込み戸は、タモの無垢材とデサインガラスを組み合わせたオリジナルの造作建具。

鉄骨のらせん階段が印象的なLDK

廊下・ホール Hall

1階は鉄骨造のらせん階段を中心に、書庫、リビング、ダイニングを回遊するレイアウトとした。床材は信州の栗(クリ)と北海道の楡(ニレ)を比較検討し、色合い・木目が気に入ったニレの無垢材を採用。 建材の長距離輸送よって生じる環境負荷を考慮し(ウッドマイレージ)、できるだけ国産のもの、輸送距離の短い近隣国産のものを選ぶようにした。

様々な用途に使える土間ダイニング

ダイニング Dining

1年間この土地に暮らし、庭を近くに感じる暮らしがしたいという想いが生まれた。 フローリングから一段下げた土間ダイニングはウッドデッキとフラットに繋がり、庭との段差は30cmほど。 大きなサッシを開けば、まるで庭と地続きのような感覚を楽しむことができる。 土間は同時に、薪ストーブの設置条件を満たす、パッシブソーラーのシステムに組み込まれるなど、複数の役割を果たしている。

北欧デザインの鋼板製薪ストーブ

キッチン Kitchen

薪ストーブは鋳物ではなくモダンな鋼板製を選択。北欧メーカー「HETA」の NORN soapstone を設置した。 鋼板は冷めやすい素材だが、この製品は蓄熱性能の高いストーンで本体を包むことで熱保持力を高め、薪が燃え尽きた後も長時間室内を温かく保つことができる。 インテリアに馴染みそうなデザイン、省スペースであることも気に入った点。 ダイニングの上部は吹き抜けとし、薪ストーブの煙突を真っすぐに通した。

造作カウンターとシステムキッチンを組み合わせた

キッチン Kitchen

メーカー製のシステムキッチンと造作のシンクカウンター、造作の収納棚を組み合わせたキッチン。 カウンターは数ミリの塗装でモルタルの質感を再現できる、モールテックスという左官材で仕上げている。 キッチン・パントリーの床にはコルク材を使用。衝撃を吸収するため足触りが柔らかく、保温性が高いため冬季でも温かい。 万が一お皿を落としても割れにくいそう。

パッシブデザインを取り入れたダイニング

ダイニング Dining

パッシブデザインを念頭に設計するにあたり、窓の配置や素材にもこだわった。 吹抜けに設けた窓は、太陽の高度が低くなる冬はより多くの日光を取り込み、高度が高くなる夏は軒で日差しを防ぐよう設計されている。

パッシブデザインを取り入れたダイニング

ダイニング Dining

また、陽光を取り込む南側の開口部はなるべく大きくして、2重構造の複層窓と気密性の高い木製サッシを導入。 逆に北側の開口部はなるべく小さいサイズに留め、熱を逃しにくい3重構造の開き窓としている。 自然によって生み出されたエネルギーを無駄なく活用するためには、間取りや建具の選び方が重要になる。

ヨーロッパ調のインテリアでまとめたトイレ

トイレ Water closet

トイレにはキッチンと同じタイル、同じコルク床を採用している。 oeil-de-boeuf(牛の目窓)をイメージした鏡、ヨーロッパ風のモチーフを取り込んだ造作の手洗い器は、お施主様の好みを反映したデザインと省スペースを両立している。 まさに自由設計ならではの強み。

階段の奥に設けたリビング

リビング Living

リビングはらせん階段の奥に配置。 既存住宅では寝室のあったスペースだが、建て替えによって寝室は2階に移動した。

視線を通すため圧迫感のない鉄骨造のストリップ階段

階段 Stairs

リビングは一段掘り下げたピットリビングとしている。 鉄骨造のストリップ階段にしたことで視線が抜けるため、リビングやダイニングを広く感じることができる。

らせん階段を上から見る

階段 Stairs

らせん階段は目にした時「上に何があるのか?」と思わせてくれる点が気に入っているとのこと。 インテリアとしての存在感は抜群だが、上階に大型の家具を運び込む際には別途搬入ルートを確保しなければならない点に注意。

らせん階段と吹き抜けを繋ぐ2階開口部

廊下・ホール Hall

2階のホールはダイニング上部の吹き抜けと繋がっており、らせん階段から吹抜けへと空気が巡回するよう計画した。 床は1階と同じニレ材を使用しているが、天井はクロスではなく国産のヒノキ材を貼っている。

二階吹き抜けからダイニングを見る

ダイニング Dining

吹抜けからダイニングを見る。屋根まで伸びる薪ストーブの煙突は、排熱を利用して2階全体を暖めてくれる。

オープンタイプの造作洗面台

洗面台 Vanity

2階ホールに設けた、オープンタイプの洗面台。光が届きにくい場所にはトップライトを設けて採光している。

ロフト

ロフト Loft

ウォークインクローゼットから登ることができるロフト。奥に見える通気ガラリとトップライトを開くことで、2階居室の換気を行うことができる。

吹抜けに面する和室

和室 Japanese style room

畳は国産のイ草を使用し、壁は左官職人の技量が現れる漆喰仕上げ、天井には木目が美しいヒノキ材を貼った。 程よい木質感と香りの良さで、クロス貼りの部屋よりもリラックスすることができる。 向かって左側の障子は吹抜けに面しており、開けば土間ダイニングと繋がる。

パッシブソーラーを実装した土間

ダイニング Dining

装置を使って太陽光を別の熱エネルギーに変えるシステムを「アクティブソーラー」と呼ぶのに対し、「パッシブソーラー」は建物そのもののエネルギー効率を高めることで快適に暮らすシステムのことを示す。 このお住まいでは、冬季は外部から取り込んだ空気を屋根の集熱パネルで熱して1階の床下に送風。 薪ストーブという補助熱源も利用しつつ、蓄熱性能の高いコンクリート床でじっくりと室内全体を暖める仕組みとなっている。

植栽が馴染み始めた外観

外観 Facade

入居後、前面道路にノシバを敷いた。植栽も少しずつ成長し、風景に馴染み始めている。

  • 設計

    花川 耕介

  • 大工

    渡邊 佑一