雑記

お気に入りの「洋館」

旧東海道沿いに面した藤沢ショールームの植木に賑わいを添える薄紫の花はツリージャーマンダー、地中海沿岸原産の花は料理に葉や枝の香は害虫除けにもなるらしい、そんなことはこうやってなんとなく写真を撮って紹介しようとして初めて知ったわけなのですが、、

皆様こんにちは、平成建設藤沢支店設計課の長野です。

昨年の秋から工事を進めてきた木造住宅のお引渡しを迎えました。平成建設で恒例のテープカットの準備も万端です。この御宅の特徴はなんといっても外壁の低層部のレンガ調タイルです。木造では最近珍しいモルタル下地に一枚一枚貼り込んでいく施工、目地も深くその分陰影の表情が独特です。上層部はハーフティンバー風の化粧モールをあしらった白い塗壁、いわゆる洋館とよばれる佇まい。

 

その存在を声高に主張するのでなく季節の変化の中生え出たような佇まいの住まいができたならと。ただその土地で手に入る材料が限られた時代と違って、地域性から派生する地に足の着いたデザインは少なくなっています。住まい手のこだわりや想い入れが反映されやすい住宅は海外で見かけたあんな風な意匠がいいな、だとか最近の流行りの何とか風だとか様々な要望に応えることが求められます。好みの装飾を身につける感覚に近しい。設計者は諸条件を材料と材質の特性を踏まえながら整理整頓していきます。そこに何かを付加していくのではなく、庭師が風通しのよい葉叢を剪定していくかのごとく。

お気に入りの洋館があります。鎌倉駅から山合いの小川沿いに蛇行したバス通りを東に10分ばかり行くと、宅間谷戸と呼ばれる侵食された岩肌が所々顕になる囲まれた谷間があります。報国寺所有の借地に建つ家々の区画には余裕があって、谷の奥へと緩やかな傾斜を登っていく小径沿いには様々な水草花に縁を彩られたうるわしい水流があります。

この界隈のたおやかな風情の要になっている華頂宮博信公爵のかつてのお住まい、ハーフティンバー風お屋敷は昭和4年に建設されたと聞きます。かれこれ15年程前連続ドラマの舞台でその存在は知っていましたが、内部公開が年二回ということもあり初めて訪れたのがこの春です。

鎌倉は全国に先駆けて大正末期から昭和初期にかけての近代洋風建築を文化として継承していくため景観重要建築物を支援していく取り組みを行っており、この旧華頂宮邸も第29号に指定されています。

持主が転々と移り変わってきた中で、結婚式場として活用されるという案も検討されたことがあったらしくその際周囲の住民の方々の反対もあり、現在は鎌倉市が買い上げて庭の手入れなども近隣住民の有志によって維持されているとのこと、春秋の土日二日間だけの公開日には市の職員と共に沢山のボランティアの皆様が生き生きとした立ち居振る舞いで案内をされています。ダイニングスペースではドリップコーヒーのサービスもあったり、部屋ごとで建物への愛着とともに伺う逸話も印象に残りました。

設計や施工は不詳ですし内装の後補も多くありますが、外観の端正なプロポーションや窓から差し込む光を受け止める壁や天井の造作、谷戸ならではの急斜面を覆う樹々と取り結ぶ関係性、部屋の重心をわきまえたペンダントやブラケットライトのコンビネーションなど、随所に記憶の中にある感性を共振させるつぼがちりばめられています。

和風や洋風といったスタイルの先にある居心地と呼ばれる身体性をベースにした他者への配慮。