雑記

お気に入りの「古建築」~外部と向かい合う茶室~

平成建設藤沢ショールームもクリスマスまでひと月というところでショーウィンドウにはツリーの装い、通りに向けて赤いとんがり帽子に白い長ひげの小人はクーナ?ではありません、あしからず。(クーナにご興味のある方は是枝裕和監督のテレビドラマ『ゴーイングマイホーム』参照)

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施工現場、秋の近況です。平成建設では木造の住宅だけでなく鉄筋コンクリート造の賃貸マンションも数多く手掛けており、ちょうど川崎市宮前区では住宅とマンション現場が100mほどの至近距離で隣接しています。イチョウ並木に面したマンション側ではちょうどコンクリート型枠をばらした後の資材を搬出中、リーチタワークレーンという首が折れるタイプのもので並木をいためないよう配慮されていました。上棟を迎えた二件の現場の進捗は随時紹介していきますね。

 

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さて今回の主題はお気に入りの『古建築』です。

歴史の長い建築雑誌に1925年(大正14年)創刊の月刊誌『新建築』があります。2005年11月新建築臨時増刊号『日本の建築空間』は空間を切り口として飛鳥時代から21世紀までの建築100選を紹介したものです。藤沢ショールームのある神奈川県では明治の実業家原富太郎が日本各地の古建築を移築し庭園として整備した「三渓園」にある二つの古建築『臨春閣』『聴秋閣』が紹介されています。『聴秋閣』は12月11日までの限定公開とあり祝日を利用して訪問してきました。

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建坪10坪程度、一部二帖の座敷を二階に頂く楼閣状建築、脇に流れている小川に渡した飛び石のアプローチは移築前の池に面した船着き場を思わせる木製のタイルが敷かれた土間へと続き小上りの段差部には欄干が設けられています。L字の土間を取り囲むように配された座敷は平面的に出隅の角を斜めに落とした壁面に付書院が設けられており、座敷の対角方向に開け放たれた書院窓から臨む日差しを受けた裏庭の景色は室内の陰影との対比で効果的に印象付けられています。書院と逆方向に続く次の間は床の高さが敷地の傾斜に合わせて一段低く設けられており、行燈が照らす床面の光の拡がりが特徴のある空間構成を引き立てています。

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小川の流れる敷地の傾斜と建物内部のレベル差との呼応は、建物の規模・様式の違いはありますが南仏のシトー会修道院ル・トロネを想わせます。渓流の水上を辿る斜面を登り下る遊歩道から屋根の形状を眺めてみます、室内の書院窓へ向かう対角方向の軸線上に素直に取り付く入母屋の仕舞い方が巧妙で粋。また裏庭に背負う山の傾斜と建物との隙間は空間的に計算された比例をもつ間合い、ここが日本の建築文化が継承する『空間』デザインの秘訣ではないかと。

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元の築年が1623年から500年弱、移築された1922年からでも100年近く経つわけです、このささやかな木造建築が丁寧に手間をかけ維持管理されることの意義は多くの訪問者の昂揚した息遣いに肌で感じ取れました。時間の流れに風化されずに残された洒脱な感性を是非継承していきたいものです。

 

三渓園には他にも驚かされる古建築がたくさんあって見所に迷う方へのお勧めを少し。ダムの底に沈むことから移築された白川郷合掌造りの『旧矢箆原(やのはら)家住宅』~卒然と現れるスケールにまず驚かされ三渓園で唯一内部見学ができ囲炉裏の暖かさも堪能できます。『旧東慶寺仏殿』~正方形の平面形だからもあって正面と対角面との比較で立上る素朴なプロポーションが新鮮。

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織田有楽斎による茶室「九窓亭」を付した柿葺き切妻屋根の庵『春草盧』~訪れる人が少なく感じるのは木立の仄暗さのせいだけでもなく木造にしてはあまりに深い軒の出の下にある茶室(九つの窓でも室内にはどこまで光が届くのか)が面した庭と呼ぶにはその境界が奥深く続くため領域が捕捉し難く不穏さが漂う風情のためであろうか。ここで営まれたであろう茶会で出会う主人と客人はおのずと忍び寄る自然所謂外部に対して否が応でも手を携えていかねばならない心境に畢竟置かれたのではないか、それが仕組まれた外部であることの是非はそこでは決して問われることはない予定された連帯。